改正区分所有法で新設された「専有部分・共用部分の管理制度」とは?

不動産登記

所有者不明・管理不全マンションに対応する新たな財産管理制度をわかりやすく解説

2025年の区分所有法改正により、老朽化マンションや管理不全マンションの問題に対応するための新しい財産管理制度が創設されました。
施行日は令和8年4月1日です。

今回の改正では、従来のように「人」を対象に管理するのではなく、専有部分や共用部分という“物”を直接管理する制度が導入された点が大きな特徴です。

これにより、所有者が不明な場合や、所有者がいても適切な管理がされていない場合に、区分所有建物特有の問題へより迅速に対応しやすくなります。

本記事では、改正区分所有法に基づく新制度について、制度の背景、3つの管理命令、管理人の権限、手続上の注意点まで、ブログ形式でわかりやすく解説します。


この記事でわかること

  • 改正区分所有法で新設された管理制度の概要
  • なぜ「人単位」ではなく「物単位」の管理が必要なのか
  • 所有者不明専有部分管理人とは何か
  • 管理不全専有部分管理人・管理不全共用部分管理人の違い
  • 裁判所の関与、登記、費用負担のポイント
  • 従来制度との違いと実務上の注意点

1. 改正区分所有法で新たな管理制度が創設された背景

マンションなどの区分所有建物では、専有部分共用部分が密接に結びついています。
そのため、通常の不動産とは異なり、建物全体の管理や再生には、区分所有者同士の合意形成が欠かせません。

しかし、現実には次のような問題があります。

  • 所有者の所在が分からない
  • 相続が未了で名義が整理されていない
  • 管理費の滞納や放置が続いている
  • 漏水、外壁落下などで周囲に被害が出ている
  • 既存の管理人制度では対応に時間がかかる

従来の不在者財産管理人相続財産清算人は、あくまで「人の財産全般」を対象とする制度です。
そのため、対象範囲が広く、調査や管理に時間がかかり、予納金も高額になりやすいという課題がありました。

また、民法の所有者不明土地・建物管理制度は、区分所有建物には適用されません。
このため、区分所有建物に特化した新しい管理制度が必要とされていたのです。


2. 改正法で導入された3つの管理制度

改正区分所有法では、主に次の3つの制度が設けられました。

制度名対象主な要件
所有者不明専有部分管理人所有者不明の専有部分(共有持分を含む)所有者または所在が不明で、管理の必要があること
管理不全専有部分管理人管理不全の専有部分管理が不適当で、他人の権利・利益が侵害され、またはそのおそれがあること
管理不全共用部分管理人管理不全の共用部分管理が不適当で、他人の権利・利益が侵害され、またはそのおそれがあること

ここで重要なのは、
「所有者不明」か「所有者はいるが管理が不十分」かによって、使う制度が異なるという点です。


3. 所有者不明専有部分管理人制度とは

制度の目的

この制度は、区分所有者の所在が分からない専有部分を適切に管理するためのものです。

たとえば、

  • 災害復旧の妨げになる
  • 空き部屋が放置されて劣化が進む
  • 売却や活用ができず流通が止まる
  • 管理費や修繕の調整ができない

といった問題に対応するために設けられました。

申立てできる人

申立権者は、利害関係人です。
たとえば、次のような人が想定されます。

  • 他の区分所有者
  • 管理組合法人
  • 管理者
  • 購入希望者
  • 不明共有者以外の共有者 など

発令要件

裁判所が管理命令を出すには、次のような事情が必要です。

  • 調査を尽くしても所有者が分からない
  • または所有者の所在が分からない
  • そのうえで、対象専有部分について管理の必要性がある

管理人の権限

所有者不明専有部分管理人には、比較的強い権限が与えられます。

1. 管理処分権が管理人に専属する

対象となる専有部分の管理処分権は、管理人に移ります。
そのため、管理人が中心となって管理や処分を進めることができます。

2. 保存・利用・改良行為が可能

  • 保存行為
  • 性質を変えない範囲の利用行為
  • 性質を変えない範囲の改良行為

は、原則として管理人が単独で行えます。

3. 売却や大規模変更には裁判所の許可が必要

一方で、売却や大きな改修など、重要な処分行為には裁判所の許可が必要です。

4. 集会で議決権を行使できる

所有者不明の場合でも、管理人が集会で議決権を行使できます。
建替え決議など、重要な場面にも関わり得ます。


所在等不明区分所有者の除外決定との関係

裁判所が、所在不明者を決議の母数から除外する決定をしている場合は、その決定が優先されます。
つまり、管理命令と除外決定の関係整理が重要です。


4. 管理不全専有部分管理人制度とは

制度の目的

所有者は分かっていても、管理がずさんで周囲に迷惑を及ぼしている専有部分に対応する制度です。

たとえば、

  • 害虫や悪臭が発生している
  • 配管の腐食を放置して漏水が起きている
  • 近隣住民や他の区分所有者に被害が及んでいる

といったケースが想定されます。

申立てできる人

申立権者は、次のような利害関係人です。

  • 他の区分所有者
  • 近隣住民
  • 管理者
  • 管理組合法人 など

発令要件

必要なのは、次のような事情です。

  • 所有者による管理が不適当である
  • その結果、他人の権利や法的利益が侵害されている
  • またはそのおそれがある
  • そして、管理の必要がある

この制度の特徴

1. 原則として本人の陳述を聴く

管理不全専有部分管理人の選任にあたっては、原則として、対象となる区分所有者の意見を聞く必要があります。

2. 管理処分権は専属しない

所有者不明型とは異なり、管理人に管理処分権が完全に移るわけではありません。

3. 訴訟上の当事者適格はない

管理人は、訴訟において当然に原告・被告となる立場ではありません。

4. 処分には本人の同意が必要

専有部分の売却などの処分をするには、裁判所の許可に加えて、当該区分所有者の同意が必要です。

5. 議決権行使はできない

この制度では、管理人が集会で議決権を行使することはできません。


5. 管理不全共用部分管理人制度とは

制度の目的

共用部分が適切に管理されず、建物全体や周辺に悪影響が出ている場合に対応する制度です。

たとえば、

  • 外壁の剥落を放置している
  • 廊下にゴミが放置されている
  • 屋上や階段の損傷が放置されている

といったケースが対象になり得ます。

申立てできる人

申立権者は利害関係人です。
近隣住民や他の区分所有者などが想定されます。

特に、管理者や理事が機能していない場合に活用が想定されます。

対象範囲の注意点

共用部分全体が対象となります。
ただし、一部共用部分が管理不全となっている場合は、その一部共用部分を対象として別途申立てが必要です。


管理人の権限

1. 善管注意義務・誠実公平義務を負う

管理人は、区分所有者全員のために適切に職務を行う必要があります。

2. 保存行為は単独で可能

共用部分の維持保全のための行為は、管理人が単独で行えます。

3. 変更・処分には裁判所の許可が必要

重要な変更や処分には、裁判所の許可が必要です。

4. 処分には所有者全員の同意が必要

共用部分の処分については、区分所有者全員の同意が必要となります。

5. 議決権は行使できない

この制度でも、管理人が集会で議決権を行使することはできません。


6. 手続の共通事項と実務上のポイント

1. 管轄裁判所

申立ては、専有部分または共用部分の所在地を管轄する地方裁判所に行います。

2. 公告が必要な場合がある

所有者不明専有部分管理命令の場合には、1か月以上の異議届出期間を定めた公告が必要です。

3. 登記の扱い

所有者不明専有部分管理命令が出た場合は、裁判所書記官の職権で、対象専有部分または共有持分に管理命令の登記が嘱託されます。

ただし、管理不全管理命令については、登記はされません

4. 予納金と費用負担

管理に必要な費用を確保するため、申立人が予納金を負担することがあります。
管理人報酬や管理費用は、原則として対象財産から支弁されます。

ただし、管理不全共用部分管理人の場合は、区分所有者全員が連帯して負担することになります。


7. 従来制度との関係

新制度ができたからといって、従来制度が直ちに不要になるわけではありません。
ただし、既に不在者財産管理人相続財産清算人が選任されている場合には、新たに管理命令を出す必要性がないと判断されることがあります。

また、民法上の所有者不明土地・建物管理命令が使える場面では、その制度との関係整理も重要です。
他方で、区分所有建物については、区分所有法に基づく新制度が優先的に検討される場面が多くなります。


8. まとめ

改正区分所有法により、マンションの専有部分共用部分を直接対象とする新たな管理制度が創設されました。

この制度のポイントは、次のとおりです。

  • 従来の「人単位」ではなく「物単位」の管理へ転換したこと
  • 所有者不明物件と管理不全物件を区別して対応できること
  • 専有部分と共用部分で管理人の権限が異なること
  • 管理不全共用部分については、区分所有者全体への影響を踏まえた制度設計になっていること

老朽化マンションの増加が進む中で、この制度は今後ますます重要になります。
実務では、どの制度を使うべきか、誰が申立てできるか、管理人にどこまで権限があるかを正確に見極めることが大切です。

関連記事 所有者不明土地・建物管理命令 Q&A

監修 司法書士 中野大輔  なかの司法書士事務所

免責事項: この記事は、法律の一般的な情報を提供するものであり、個別の事案に対する法的アドバイスではありません。個別のケースについては専門家等にご相談ください。法令の改正により内容が変更される場合があります。